日本Webリポート&ニュース

2007-11-08 (木)

裁判所が和解を勧めることのあれこれ~薬害肝炎事件のニュースから [弁護士業について]  

http://www.so-net.ne.jp/news/cgi-bin/article.cgi?gid=soc&aid=20071107it06

大阪高裁が,薬害肝炎裁判について,原告と国の双方に和解勧告をした。裁判所の和解勧告というのは,訴訟法上は別に当事者は断ってもいいのだが,実際にはそれなりに重みがあり,特に国の側としては,そう無碍には断れない。

 私は,この事件で裁判所がリードして和解勧告して,特に国に対して指導力を発揮していることがとても良いことだと思う。現実的に,少しでも,被害者の人たちへの正当な救済に近づくだろうと思われる。

 さて,この高裁裁判官がどうだ,というわけではなくて,裁判官の中には,色んな個性があって,和解をよく勧める人とそうでない人というのもいる。

 裁判官の置かれる立場というのは,かなり大変なものだ。

 まず高裁は特にそうらしいが,多数の件数の事件を,しかも地裁で第1審をやった続き(つまり記録がパンパンにふくれあがっている状態)から,記録を精査し,自分なりに処理しなければならない。

 はっきり言って極めて多忙である。重労働,過酷労働である。

 そして,裁判は原則的には判決で終わる。判決とは,「勝ち」「負け」だけを言えばいいのではない。裁判官にとっては,判決書を書かねばならない。これは極めて大変な作業だ。薬害肝炎裁判の場合は判決書だけで膨大なページ数になるのは間違いないが,そんな事件でなくても一件一件,数十頁の判決書をしかも重要な証拠に対する評価を漏らさず,また,論理的にも欠陥を最小に防いで書かなければならない。

 さて,裁判官にとって,判決書を書かなくても済む方法がある。代表的には,当事者が裁判を取り下げるか,それとも和解が成立するか,という場合である。

 もちろん「判決書を書きたくないから和解を強く勧める」というのは本末転倒であって,今いる裁判官の人たちがそんな考えで仕事に臨んでいるはずはない,と思う。

 けれどもやはり頭の中には必ず「判決書を書くのには大変な時間と手間が掛かる」ということそのものは,自分で意識しなくても裁判官の中にあるのは間違いない。

 

 私が裁判をやっているとき,ときに,私の依頼者は「裁判所に判決を書いて欲しい」と希望しており,それを裁判官に伝えるのだが,(和解を勧めている)裁判官によっては,

「なぜ和解に応じないのか?
ということを,かなり強く,また何度も,言われることもある。こんなとき,その「勧告」の強さの度合いによっては,私も少し反発を覚え「当事者が和解をしないといっているのに,判決をするのが原則的な裁判の在り方ではないのか。」という気持ちになることもある。しかし,それでも,この先判決を書くとしても同じ裁判官だと思うと,余り派手に喧嘩をしたくないという気持ちもあって,そういうとき裁判官に逆らいがたい雰囲気になってしまうことも時々ある。

 

 裁判所が和解を勧めること。

 これは,やり方や程度,内容によっては,いいこともあるし,また,逆に,あまり適切ではないことも両方あると思う。

 上で私が挙げた例のように,「裁判官自身はこれがベストの解決と思って和解を提案し,またそれは客観的には確かにベストかもしれない。だが,当事者の心,立場をきちっと想像できていない。」と思われるような,独善的な和解勧告のやり方を,余りに強く,何度もなされたときには,民事裁判のあるべき姿が曲がってしまう恐れを感じるときがある。

 (民事裁判は,訴えるかどうかも,どういう主張をするかも,どういう証拠を出すかも,どういう形で終わらせるかどうかも,当事者=原告,被告の自分の意思で決めて良い,という原則になっている。

 「私のあなたの(利害に関する)裁判」だからだ。これが,当事者が心からは望まない形で終わるというのは良くない。)

 しかし,今回の大阪高裁の横田裁判官の和解勧告は,本当に当事者の立場を想像し考慮して,これが一番と思って,なされたものだ,と私は思う。これは,なんでも判決ではなくて裁判上の和解という途があることが,役だった例だと思う。

 

 上でも述べたとおり,裁判官の仕事は,本当に大変な仕事だが,判決であれ,和解であれ,とにかく当事者の立場への想像力をしっかり働かせていただいければ…といつも私は思っている。

 もっと言えば,裁判官の激務状態を,条件面においてもう少し解消できたら,もっと,それぞれの裁判官が当事者への想像力を働かせやすくなるだろうにな,と思っている。(法律家の人口を増やす政府方針にあっても,実は,裁判官の増員は予定されていない。受け入れる設備への予算がかかるからだ。これは重大な問題だ。)

神戸:村上英樹  弁護士村上英樹のブログ

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