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2011-05-22 (日)

毒草と山菜 

北海道はこれから6月にかけて山菜採りのシーズンである。
毎年のように迷って、行方不明になる事故が繰り返されるが、もう一つ新聞紙上を賑わすのが山菜中毒事故である。
若葉は皆美味しく見えるのだろう。
山菜採りシーズンを前に、北海道立衛生試験所で「毒草と山菜の展示会」が開かれ、のぞいてきた。

  < 日本三大毒草 >

北大に隣接する北海道立衛生試験所には立派な薬草園があり、普段のフィールドワークとは一味違った楽しみを味わえる場所である。
私は怖いもの見たさに、毎年のように訪れている。
また当研究所にはその道の大家がいて、数年前世間を賑わした沖縄のトリカブト殺人事件の鑑定はこの衛生試験所で行われており、トリカブトによる中毒死の検体は、ほとんどここに運ばれてくるという。
会場に入ると、入り口にどかんと展示された「日本三大毒草」が歓迎してくれた。
左からドクウツギ、真ん中の二つがトリカブト(オクトリカブト・エゾトリカブト)右がドクゼリである。
いずれも人間を簡単に死に至らしめる、極め付きの猛毒野草だ。

このうち野山で実際に観察したことのあるのは、トリカブトだけで、あとの2つはこうした展示会でしかお目にかかったことはない。
お馴染みのトリカブトは、食べるとおいしいニリンソウとよく間違われる。(写真左ニリンソウ:右トリカブト
毎年のようにトリカブトによる中毒事故がおきる。
よりによって、ニリンソウとトリカブトが隣り合わせに生えていることが多い。
アイヌの人はトリカブトと区別するために、花の咲いたニリンソウを摘むよう口承伝承されていたという。

トリカブトは根・茎・花全草有毒で、いろいろな種類がある。
その中でも最も毒性の強いのがオクトリカブトだ。
アイヌはオクトリカブトのエキスを矢の先端に塗り付け、エゾシカが獣道を歩いて糸に触れたとき、矢が放たれる「仕掛け弓」で狩りをした。
トリカブトの花はとてもきれいだ(写真右:野幌6.8)
貴族が頭にかぶる鳥烏帽子のような花で、花が少ない
8月に咲くことから、なおさら目立つ。
紫色の花には気品すら感じる。
もともとトリカブトは芽出しの時からつやがあり、他の野草とは違って、背筋を伸ばしていて存在感がある野草である。

  < 似て非なる毒草と山菜 ①>

 写真左から ○ニラと×スイセン、○オオヨモギと×フクジュソウ、×ドクニンジンと○シャク (〇は食用可 ×は有毒)
会場には葉がよく似て間違いやすい野草が、一緒に並んで展示されている。

  

「ああこれでは間違うわ」という声があちこちから聞こえる。

このうちドクニンジンはソクラテスを毒殺した毒草として知られている。
しかも、一気に昇天するのではなく、意識が最期まで残るむごい毒草だ。
ドクニンジンの茎に赤い斑点がついている。(写真左円)
ソクラテスの恨みの血と云われている。

北大構内で新入生を歓迎するコンパが催され、鍋料理が作られた。
構内にあるシャクを摘んで野菜として鍋に入れて食べた。(写真右:北大構内6年5月)
すると突然新入生の一人がもがき苦しんだ。
先輩学生はとっさにドクニンジンが混ざっていたと直感し、苦しむ学生の口に手を入れ、背中をさすり、無理やり吐かせた。
かろうじて一命は取りとめた。
よりによって、そのコンパは農学部の学生たちであったという。
北大構内でシャクを観察するたびに。よく聞かされる昔の実話である。

今回シャクとドクニンジンの違いを徹底的に学ぼうと、薬学博士から手取り足取り教わった。
まずドクニンジンは、いやな臭いがするのに対し、シャクは無臭。
ドクニンジンには茎に赤い斑点があるのに対し、シャクにはない。
そしてなによりも、シャクの茎から葉の部分に袴(はかま)とよぶ覆い(写真左丸印)が付いているのに対し、ドクニンジンにはない。

これだけ知っておけばまず間違いないという。
用心深い私は、シャクは食べないことにしている。

 < 似て非なる毒草と山菜 ②>

写真左から ×バイケイソウと○タチギボウシ ○ギョウジャニンニクと×イヌサフラン×ホウチャクソウと○ユキザサ。

  

野山を歩くと、よく見かけるありふれた野草に毒が含まれている。
このうちバイケイソウの新芽は色艶よくて、食べてみるとおいしいだろうなと、誰しも一度は思う草である。
このバイケイソウは、葉が大きいため人糞が肥料として肥溜めに蓄えられていた時代、ウジがわくのを抑えるために、肥溜めに投げ込まれていた野草だ。
写真中央のギョウジャニンニクイヌサフランは、素人ではとても区別ができない相似形だ。
ギョウジャニンニクはアイヌネギとも言われておいしく、八百屋の店頭では結構高いけど、人気がある。
平成15年、富良野市で間違えて食べて死亡したという症例があるという。

 < 暗殺の陰に毒草あり >

昔から政敵を殺すために、毒草がよく使われたという。
それを警戒して殿さまに食事を出す前に食べる毒見係がいた。
シェイクスピアの戯曲ハムレットで、デンマークの王の耳に毒をいれて殺した「ヘボナの毒汁」はイチイの種の毒と云われる。(写真左:札幌市内7年9月)
ヨーロッパでは、王族は日常、意図的に毒草を少しずつ食べていた。
これによって体に慣れができ、毒を盛られても大丈夫な体をつくっていたという。
ドイツに留学していた北里柴三郎は、その話をヒントに血清療法という画期的な治療方法を発見したということを、何かの本で読んだことがある。
うまくできている話だ。
もしこれが事実なら、彼の洞察力は超ノーベル賞ものであっただろう。

  < 群生する可憐な毒草花 >

植物になぜ有毒なものと、そうでないものがあるのだろう。
やはり自己防御機能なのだろう。
自ら移動することができない植物は「おいらを食べたらあんたは死んでしまうのだぞ」と
敵を脅しているともいえる。
スカンクがくさい臭いを出し、ハリネズミが全身に針を立てて防御しているのと同じだ。

網走に近いオホーツク沿岸に原生花園が広がっている。
その内陸部に大きくて浅い湖、涛沸(とうふつ)湖があり、馬が放牧されてのどかな景観をみせている。
放牧されている馬は草を食んでいるが、ヒオウギアヤメだけは食べない。(写真上9.5)
ヒオウギアヤメには有毒な化学物質が含まれており、ウマはそれを知って敬遠しているのだ。
その結果、涛沸湖畔はみごとなヒオウギアヤメの群生地として知られている。

日高の平取町に日本一のスズランの群生地がある。
ところがスズランは背の高い雑草と一緒に生えている上、鈴のような花は、葉の下にひっそりと咲くのであまりよく見えない。(写真左6,6)
奥ゆかしい花の咲き方から、和名で君影草とはよく言ったものだ。
ちなみに葉より花が高いスズランはドイツスズランで、ヨーロッパから導入されたものだ。
市販されているものは、ほとんど見栄えが良いドイツスズランである。
君影草なる原野のスズランをよく見てもらうために、スズランの群生地に牛馬を放牧したらどうかという計画があるという。
なぜならスズランにも毒性があり、牛馬は、雑草は食べてもスズランは食べないからだ。
スズランを一輪挿しにさしておいたら、赤ちゃんが水を飲んで死亡したという症例があるそうだ。

   < タンポポの生野菜 >

こうしてみると植物には結構毒を持っているものが多い。
しかも野山を歩くと、あちこちに観察されるなじみの野草ばかりである。

展示会場にはセイヨウタンポポもあった。
これはもちろん食用可である。
そういえば月1回教えを乞うている植物専門家から、毎年摘んでは、食べていると聞かされていた。
フランス料理の付け合せにも出されているという。
道立衛生研究所の隣は北大である。
広い構内のあちこちにはセイヨウタンポポが絨毯となって咲いている。(写真右:14日)
この時期の葉は、まだ10㎝程度で柔らかい。
いまが一番の旬だと思い、摘み始めた。
あっという間に両手に一杯になった。

夕食の食卓に、セイヨウタンポポのサラダがでた。
大家の教え通り、オリーブオイルと塩をパラパラとふって口に入れた。
少し苦みがあるが、全然苦にならない。
むしろ珍しいものを食べているという満足感がある。
家内は手を付けなかった。

セイヨウタンポポは、明治9年クラーク博士と共に来日した若きペンハロー先生が、札幌農学校の学生たちに生野菜を食べさせようと、わざわざ日本に持ち込んだもので、今日でいう外来種である。
ところが、学生たちはウサギが食うものを、といって敬遠して手を付けなかったという。
もっとも当時は、生野菜を食べるという習慣が、日本になかったこともある。

農学校の敷地内に放置されたセイヨウタンポポは、単為生殖のため、またたく間に札幌から全国に蔓延した。
札幌農学校(現北大)から端を発したセイヨウタンポポを、大学構内で摘んで食べていることになる。
歴史的感慨?をこめて、一人でパクパク食べた。

札幌:望田武司

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