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2011-05-18 (水)

枝垂れるサクラ

札幌では北海道のサクラ、エゾヤマザクラがすでに峠を越しているが、本州から持ち込まれたサクラ、ソメイヨシノは本数は少ないが開花は遅く、今が満開である。

サクラにもいろいろあるが、シダレザクラというサクラがある。
京都の醍醐寺(写真右)や、東京の六義園などの名刹・名園では、垂れている枝を添え木で支えている大木のシダレザクラをテレビでよく見かける。
歴史の浅い札幌では、そのようなシダレザクラは見当たらないどころか、本数自体もわずかで、これまでに北海道神宮境内でしか見たことがない。

今年3月、北海道大学博物館で植物標本のボランティアをしている植物愛好家を訪れたとき、3階の窓から見えるなんの変哲もない木が、シダレザクラだと聞かされた。
「えっ! こんなところにシダレザクラの木があるのか」
あれから2か月、もうそろそろ咲いただろう。
5月も半ばとなった週末、自転車のペダルをこいで、北大構内にいそいそ出かけた。

 < 赤フン踊り >

広い北大構内に入ると、歓声を上げている一団に遭遇する。
ジグザグデモを繰り返している学生のシュプレヒコールかと思って近づくと、裸になった学生が赤フン姿で、肩を組んで大声で歌っていた。
きょうの最高気温は12℃と肌寒く、私はパーカーを着こんできた。
赤い下帯姿の学生は、寒さを吹き飛ばす大声で盛んに大学寮歌を歌っており、たまたま居合わせた観光客が名物「赤フン踊り」を遠巻きに見物していた。

この日はどのようなイベントなのかと、太鼓を叩いていた学生に聞いてみた。
大学の寮「恵迪寮」の毎年の行事で、サクラが咲くころ寮生有志で赤フン踊りをして気勢をあげるのが伝統なのだという。
これから北大をでて街に繰り出し、道庁赤れんが庁舎前や、円山公園などのサクラの名所で、気勢をあげるのだという。
よくみると円陣の中には女子学生もいる。
さすがに服は着ているが、赤フン寮生と肩を組んで青春を謳歌している。

赤フン踊りはちょうどクラーク博士(写真右の円)の胸像前広場で行われていた。
僅か8か月余しか滞在しなかったクラーク博士が、青雲の志を抱いて入学してきた札幌農学校一期生の24人の子供たちと、この地で体ごと接したのは130年前のことである。
どんな気持ちで赤フン踊りを見守っているのかと思うと、微笑ましくなる。
北大にはまだこうした伝統が残っているのを、新聞やテレビで見聞きするが、遭遇するのは初めてだ。

  < 満開のシダレザクラ >

「おめでとうございます、鈴木章先生ノーベル化学賞受賞」
正面に大きな横断幕がいまだに掲げられていう北大博物館に着いた。
博物館になる前は旧理学部校舎で、北大では最も古い建物のひとつである。
この博物館には、北大130年の研究成果がびっしり詰っている。
建物の外回りには夏は緑、秋には見事な朱色となるツタが這って、歴史を感じさせる建物だ。
しかしこの時期、建物を這っているツタは落葉しており、無数の細いツルが蜘蛛の巣のようだ。

建物の裏手に回ると、すぐピンクの大木と対面する。
みごとなシダレザクラである。(写真左)

天空に伸びているため、醍醐寺のように枝は横に這ってない。
従って枝は高いところから垂れている。
シダレザクラを見上げながら、なぜ枝垂れているのだろうと思った。

 < 枝垂れのある木 >
 
枝垂れる木はというと、すぐシダレヤナギを連想する。
あの ♪ 昔恋しい銀座のやなぎ ♪ である。

札幌でもシダレヤナギはあちこちで散見される。
円山公園の池淵には、みごとなシダレヤナギが観察できる。(写真右:6.5)
小野道風ではないが、シダレヤナギに蛙がとびかかる絵がすぐ連想される。

北国に生えるシラカバにも、枝垂れているのがある。
シダレカンバという。
札幌では中島公園でしか見たことがない。
ところが、北欧に行くとシラカバは、ほとんどが枝垂れている。
スウェーデンやフィンランドでシラカバというと、シダレカンバのことを指す。
(写真左:スウェーデンのレクサンド 8年7月)

サウナに入っている人が、木の枝で体をよく叩いているのを見かける。
この木の枝はみなシダレカンンバで、カンバの木から出る香りが体に良いのだという。

もうひとつ、カツラが枝垂れたシダレカツラがある。
札幌では道庁前庭(写真右8年6月)と北大構内で観察される。
こちらの方はとても珍しい。
もともとカツラは日本固有の木である。
そのカツラが枝垂れているというのだから、
とても希少価値がある。
全国的にもそうあちこちにはないという。

  < 枝垂れの原理 >

シダレザクラにシダレヤナギ、シダレカンバにシダレカツラ・・・
枝垂れた木はこの4種類しか見たことがないが、この他にもシダレウメなど、まだいろいろあるという。
それでは落葉広葉樹はみな枝垂れるのだろうかというと、そうでもないらしい。

もともと樹木は天空に向かって伸び、枝も横向きに伸びる。
重力に逆らって伸びるのだから、枝に相当な筋力ならぬ“枝力”が必要だ。
つまり通常は枝の上腕部に、枝を引っ張る力がついていて枝は垂れないのだという。
ところが枝垂れる木の年輪を見ると、枝の上部と下部は平等で、枝を引っ張り上げる力がないという。
このため重力に従って枝垂れるのだという。
枝の上腕部に力をつける特殊なホルモンを注入すると、枝垂れはなくなるという。

それでは枝垂れる木はポキッと折れるかというと、そうではなく逆にしなやかに垂れている。
「ヤナギ腰」といわれるほど弾力があるのが面白い。
植物生理というのはとても深淵だ
そういえば枝垂れる木の葉はみな小さい。
葉の重みで、折れないようになっているということなのだろうか。

  < 雪の重み >

去年10月下旬、札幌に初雪が降った。
気象台が初雪を観測したと発表するときは、みぞれか、せいぜい雪がちらつく程度で「えっ、きょうが初雪だったの」という年が多い。
ところが、去年の初雪は違った。
10㎝ほど積もり、それも気温が高いため水気を多く含んだ雪だった。
すると大変なことが起きた。
10月下旬では広葉樹は、紅葉はしていてもまだ落葉はしていない。
街路樹や庭園樹の枝が折れる被害が相次いだのだ。
葉の大きい樹ほど枝がボキボキ折れていた。
造園業者は朝から総動員された。
改めて雪の重みというのを思い知らされた去年の初雪だった。
そう思うと雪の重圧に耐えている常緑針葉樹の体力は、ものすごいと思う。
(写真:野幌森林公園のトドマツ 9.2)

枝垂れた木のメカニズム、その弾力性、葉の大きさとの関係・・・
知れば知るほど植物には深みがある。

植物は動物と違って自ら移動することはできない。
一度生を受けた植物は、その場で生命を維持しなければいけない。
それだけではない。
与えられた環境で、次の時代を託す様々な工夫をして、何千年何万年もかけて進化しているのだ。
枝垂れひとつだけで、いろいろなことが関連づけて思いだされ、疑問もわく。

大学構内の一角にシラカバ林があり、すでに若葉をつけていた。(写真右)
その一方でイチョウはまだ葉をつけていない。

オニグルミという木がある。
オニグルミは5月下旬、他の木が葉をつけて、とうに活動を始めているのに、いまだに冬の姿のままで寝込んでいる。
活動がもっとも遅い樹だ。
あるフィールドワークで元植物園長に尋ねた。
「先生、オニグルミは怠け者ですね。まだ寝てるのですから。」
元植物園長笑って曰く「慎重なのです。寒さがもう逆戻りしないということを見極めてから活動を始めるのですよ。」
そうか、ものは言いようだ。
確かに、いくら遅く活動を始めても、オニグルミは秋には大きなクルミの実をたわわにつけている。

ペダルを踏んで帰路についた。
途中大学構内にウメが咲いていた。
紅梅だ。 (写真左)
自転車から降りてパチリ、
札幌ではサクラより遅く、ようやくウメが満開になった。

札幌:望田武司  

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