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森と湖のフィンランド(2)
~北極圏をまたぐ~
フィンランドは南北に長く、北部はラップランドといわれている地方で、大半が北極圏に入る。
トナカイとサンタクロースの本場である。
私はある植物を求めてラップランドに行こうとしたら、コングレス参加の女性陣から、「せっかくここまで来たのだから、私たちも北極圏に行きたい」という希望があり、結局女性5人を含む7人でラップランドを目指した。
目指すはラップランドの州都ロバニエミである。
ヘルシンキからざっと800キロ、ちょうど東京から青森に相当する。
町の郊外がちょうど北極圏の線上だ。
私たちは週末を利用して夜行寝台列車で出発した。
フィンランドは人口の大半がヘルシンキを中心とした南部に集中しており、北に向えば向うほど人口は疎となる。
車窓から見る風景も、牧草地として切り開かれたところを除けば、まさに森と湖の原野だ。
今回の旅でフィンランドを縦に縦走したことになるが、車窓から見る森は圧倒的にアカマツが多いのに気づく。(写真左:タンペレ郊外の森)
アカマツは北海道には自生しない。
本州から植えたものが、わずかに道南の国道沿いの街路樹と、札幌などに開拓者が故郷を想う望郷樹として植えたものが散見される。
ヨーロッパアカマツと言われるこの地域のアカマツは、フィンランドだけでなく、隣のスウェーエンやポーランドでも圧倒的に多かった。
落葉樹林と違って直立不動のアカマツ林は実に美しいが、同時に冷たさも感じる。
ヨーロッパアカマツに次いで目立つのがシラカンバ(白樺)だ。
それも日本の高地で見られるシラカンバとは種類が違って、シダレカンバと言われるものだ。
シダレヤナギとかシダレザクラは日本でもおなじみであるが、シダレカンバは北海道でもそうあちこちにはない。
ところが北欧ではシダレカンバが主流で、大木の枝がヤナギのように垂れ下がり、見事な樹形を作っている。(写真右:ロバニエミ住宅街のシダレカンバ)
フィンランドはサウナの本場でもあるが、サウナに入った人が木の枝で体を叩いているのをよくテレビで見かける。
その叩いている枝がシダレカンバの枝だ。
枝で体を叩いて血行をよくし発汗を促すだけでなく、邪気を払うという古来からの慣習もあるという。
また新鮮でデリケートな香りを放ち、サウナに入った後数時間はその香りが残るという。
シダレカンバはフィンランドでは「聖樹」と言われ、都心部でも植栽されているのをみると、生活の中に溶け込んでいることがよくわかる。
北欧の森は概して木の種類がそれほど多くない。
フィンランドではマツが45%、(ヨーロッパ)トウヒが37%、シラカンバが15%、他の広葉樹が3%とどちらかと言ったら種類が少ない。
2番目に多いトウヒは、枝から垂れ下がる葉が振袖のように広がっているのが特徴だ。
(写真左:タンペレ市内で)
日本では明治時代、鉄道防雪林としてドイツトウヒという名前で北海道に導入された。
日本の中でも森林の多い北海道は、冷温帯性の広葉樹(ミズナラ・イタヤカエデ・シナノキ・ハルニレなど)と、亜寒帯性の針葉樹(エゾマツ・トドマツなど)が混じりあった針広混合林が主流である。
専門家によると、世界広しといえども針広混交林が
観察されるところは、北海道の他に北米の五大湖周辺と、バルト海沿岸だけだそうだ。
それだけに北海道で多様な樹木を観察していると、フィンランドの森はとても単調に見える。
< 北極圏入り >
夜11時に立った列車は朝9時にはロバニエミに着いた。
気温は16度、暑かったタンペレとは空気が違う。
それでも地元の人は、今年の夏は暑いという。
私たちはさっそくテーマパークの「サンタの村」に行った。
メルヘンチックな建物が並んでいる敷地に白線が1本ひかれていた。
白線には66°32′35“と書きこまれていた。(写真右)
「ここから北極圏ですよ」という白線である。
私たちはこの白線をまたいで、北極圏に入ったといって笑いあった。
北極圏は植村直己が防寒具を着こんでソリに乗っているだけではないと思った
北極圏の自然の贈り物といえば、オーロラである。
ただオーロラは冬に見られ、夏この時期には見ることはできない。
しかし、ロバニエミの郷土資料館に入ると、暗闇の中で寝転んでオーロラをみるコーナーがあり、私たちはこれでオーロラも堪能できたと喜んだ。(写真左)
< ベリーの国 >
フィンランドでは7月に入ると市民はバケツを持って野山に入り、イチゴ摘みを楽しむ。
また、この時期タンペレでもヘルシンキでもそうだが、街角でイチゴを販売している店があちこちに並ぶ。
ストロベリー・ラズベリー・ブルーベリー・グズベリーなど種類も豊富だ。
ツツジ科のコケモモやフサスグリなどの木の実も一緒に並んでいる。
その中にお目当てのクラウドベリーがあった。
(写真ケースに入っている黄色いイチゴ)
クラウドベリーはフィンランドではステータスの高いイチゴである。
フィンランドの2ユーロ硬貨のモチーフにクラウドベリーが使われている。(写真左)
ただ食べると甘くなく、お世辞でもおいしいとは言えない。
それなのにステータスが高いのはなぜだろう。
地元の人はジャムに加工するか、ナマなら砂糖をかけて食べたり、ヨーグルトに混ぜて食べるという。
このクラウドベリーは雲がたなびくようなところの湿地帯に生え、そうあちこちにあるものではない。
多くのイチゴが赤いのに対し、クラウドベリーは赤みがかった黄色で見た眼、ベリーの王様にふさわしい風格はある。
(写真右:買い求めたクラウドベリーの絵葉書)
ベリーに国境はない。
一昨年隣国のスウェーデンを訪れた時、私は毎日滞在先の湖畔を回ってクラウドベリーを探した。
残念ながら空振りだった。
3年越しの執念で、今年こそ本場の野山に生えるクラウドベリーを観察できるだろうと思った。
わざわざ野山を本格的に歩く道具をスーツケースに忍ばせてきた。
けど滞在先のタンペレの森では難しい、もっと北に行かなければということだった。
ラップランドなら間違いないだろうと思った。
しかしこれも軽装のご婦人と一緒では断念せざるを得なかった。
幸か不幸か、ロバニエミに着いて、インフォメーションセンターで尋ねたら、近くの野山はすでに地元の人がほとんど採って生えてない。
もっと遠い奥地に行かなければという説明に納得した。
滞在中テレビを見ていると、住民がクラウドベリー摘んでいる映像が何度も流されていた。
ロバニエミでは、クラウドベリーがナマでもジャムでもふんだんに販売されていた。
産地に近いためだろうか、タンペレより安い。
わたしは植物仲間のお土産にしようと買い物籠に瓶詰のジャムを10個ほどいれた。
それに気づいた家内が「何を考えているの。こんな重たいものを」といって、籠から取り出し棚に返してしまった。
クラウドベリーの存在を教えてくれた専門家などに最低の3個買った。
変圧器の鉄の塊のように重いものが3つも加わったためだろうか、帰路スーツケースの4個ある車輪の1個が回らなくなって難儀した。
10個なら別便で送ろうと思ったが、3個ならばとスーツケースの中に入れてしまったのが間違いだった。
< 探し求めたクラウドベリー >
実はクラウドベリーは日本にもある。
和名はホロムイイチゴである。
岩見沢市の幌向(ほろむい)地区で初めて発見された。
率直に言っておいしくないものだから、多くの人はそれ程の興味を示さない。
野生のイチゴで一番おいしいのはエビガライチゴだ。
ことしの初夏稚内に近いサロベツ湿原の木道わきで、ホロムイイチゴを観察した。(写真右:10.7.2)
すでに白い花は終わって、実ができていた。
後2週間もすれば黄色く色づくという時期だった。
よし今夏のフィンランドの旅では、絶対に自然に生えているクラウドベリーを探すぞと思ったものだ。
一昨年、スウェーデン中部の小都市レクサンドに滞在したとき、クラウドベリーを求めて湖畔を南に北に歩き回った。
収穫ゼロの私をみて、ホテルの従業員がプレゼントしてくれたものだ。
知人に頼んで山に行って採ってきてもらったものだという。
私はコップの中に一輪ざしにしてベッドのそばにおいて毎日眺めていた。
5日後、黄色い実はぽとりと落ちてしまった。
当たり前のことだが、ナマモノだったことに改めて気づいた。
クラウドベリー、実を構成している粒の大きさといい、色艶といい、そして形のよい葉といい、クラウドベリーが「ベリーの王様」だというのもうなずける。(つづく)
札幌:望田武司
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