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裁判員裁判と新たなブラックボックス~担当する法律家の良心が問われる[弁護士業について]
ついに裁判員裁判がスタートしました。
検察官がいわゆる「プレゼン型」冒頭陳述を行い、弁護人もそれに負けじと「プレゼン」ということが報じられています。
なるほど、パワーポイントを用いたり、図示をしたり、そういった「分かりやすい工夫」は良いことで、私が目指してきたものにも近いものがあります。
ただし、私が今まで「分かってこそ法」という理念を実現するために一番苦労してきたし、大事だと思っていることは、実は「プレゼン技術」ではありません。
もっと大事なポイントがあるのです。
「市民に分かりやすくプレゼンする」ことは、見た目には単に「技術」でできてしまいます。一見「分かりやすくプレゼンしている」「分かりやすく要約している」かのような形を作ることは実は簡単。
が「分かりやすく」しながらも「うそをつかない」「正確性を損ねない」ことが何より大切なのです。そしてそれができるのは、「本当に分かっていること」「事件の本質に限りなく迫れるまで記録を読み込み分析していること」が不可欠なのです。
単純に言って、
裁判で出されている膨大な書類の山、資料の山と、
裁判員裁判で市民に分かりやすくプレゼンされる 図・表とでは、情報量が全く違います。
ということ、「プレゼン」「要約」は、(当然ながら)膨大な事実や資料のポイントを抜き出して、細かい部分を省略している、ということが大事な点です。
タイトルで「ブラックボックス」と私が書くのは、つまりここです。
検察官や弁護士が、裁判員(市民)に対する「プレゼン」を作るときに、
膨大な資料のうち どのポイントを抜き出すか (それが本当にポイントなのか)
どの部分を省略しているか (省略の仕方が本当に正しいか)
という、ここがブラックボックスだ、ということです。
つまり、「分かりやすいプレゼン」をするときに、大切なことは、プレゼン技術だけではなく、
誠実に、職業倫理に基づいて、嘘をつかずに膨大な資料を「要約」すること
なのです。後者のほうが本質的には遙かに大事。
ハッキリ言います。
その場限りのウソなら専門家は素人に対していくらでもつけますし、多くの場合、ウソやごまかしは後になってもばれません。
ましてや、「要約の仕方」というレベルになれば、そこにいい加減なところがあっても、まずなかなか分かりません。「ウソ」とまでいかずとも、不正確な要約や過剰な演出によって、裁判員がミスリードされる恐れは大きいのです。
だからこそ、裁判員制度の「プレゼン」には、法律家の職業的良心、倫理観、誠実さが求められるのです。
裁判員裁判。
市民に対して「分かりやすい」ことはいいことです。
ですが、皆さん、「分かりやすくする工夫」、つまり、「料理の仕方」は専門家に任せていることをお忘れ無く。
さらに、「分かりやすい」がために、「分かりやすくする工夫」(「料理」)に変な物が混ざっていたらより怖い、ということも指摘しておきたいと思います。
そして、裁判員裁判を担当されている検察官・弁護人にはこう言いたい。
過度に「プレゼン技術」に躍起になるのではなく、それ以前に、「プレゼン」「要約」をする際に法律家には法律家としての誠実さを持ち続けないといけないことをまず確認して頂きたい、と思います。
私も裁判員裁判を担当する際には、「小手先のプレゼン技術」に走るのではなく、事件や法律についての正しい認識に基づいて、本質を損ねず、正しいやり方で分かりやすい言葉に言いかえることによって、市民参加の裁判を本物にしていくことを心がけたいと思っています。
さらに一言。
アメリカ映画の陪審みたいでかっこいい、面白そう、という感覚も悪いとは言いません。法廷で、依頼者に代わって、依頼者が言いたいことを伝える役目が私たち弁護士です。このことには、アメリカも日本も元々変わりはありません。「伝える技術」を磨くことは、プロ野球選手が毎日素振りをするのと同じくらいに大切なことでしょう。
ですが、それにもかかわらず、法律家は口べたでも誠実なほうがよい、ということもお忘れ無く。「口から先に生まれてきた」と言われ続けて三十余年の私が言うのも何ですが
神戸:村上英樹 弁護士村上英樹のブログ
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