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樽前山麓 夏の佇まい
樽前山(たるまえさん)は支笏湖の南、苫小牧と千歳にまたがる活火山だ。
標高1041m、さほど高くないわりには知名度が高いのは溶岩ドームを持った世界的にも珍しい三重式火山であるからだろう。
いまなお噴煙を上げている北海道の天然記念物である。
(写真:6.4.29撮影、中央の雪のない部分がドーム)
樽前山は東の千歳方向や北の支笏湖側は、比較的開けているが、太平洋岸に面する南側は人が余り入らない山麓となっている。
8月下旬、その南側山麓を訪れた。
< 侵食された火山灰 >
樽前山が昔から激しい噴火を繰り返したことは、周辺の地形を見るとよくわかる。
とりわけ南の太平洋側は、噴火で発生した火砕流や火山灰が麓を埋め尽くし、広大な裾野を作って太平洋に迫っている。
その裾野は噴火によってさまざまな表情をみせている。
まずコケが岩一面に生えているという渓谷に向かった。
樽前ガローといわれるビューポイントに着いた。
橋の上から見える川は、狭い岩肌の間を削るように流れている。 (写真左)
長い年月をかけて火山灰が侵食されてできたそうだ。
岩肌にはコケがびっしり付着していた。
たまたま雨が降った直後であり、水量があった。
ガローとは東北地方の方言で「崖の間を川が流れる場所」という意味らしい。
同じような景観が支笏湖側にあり、「苔の洞門」と言われている。
数十年前までは苔の洞門をくぐって、樽前山に登る登山道があった という。
今は危険な上、貴重なコケが荒されることから立入り禁止になっている。
観光客は入り口から覗いて、「これが苔の洞門か」と納得して戻ることになる。
(写真右上:6.27)
支笏湖を訪れる観光客は、苔の洞門まで足を伸ばす人はいるが、樽前ガローまで来る人はまずいない。
それだけに樽前ガローは神秘性を帯びている。
長靴をはいて川に入ると、ガローのすばらしさがよくわかるというが、その準備をしてこなかったので、橋の上から観察するにとどめた。
樽前ガローを見て、九州の耶馬溪を思い出した。
阿蘇山の噴火でできた耶馬溪も、ガローを大きくしたものではないかと思った。
< 地下水のたまり場 >
山の地図を見ると険しいところは等高線が混み、緩斜面は等高線に幅がある。
その横の等高線に釘で引っかいたような縦の線がよく書かれている。
これは沢で水が流れていることを示す。
水が流れているなら下流まで縦線があってもよさそうなものだが、それがいつの間にか消えてしまっていることが多い。
沢の水がなくなったわけではなく、地下水になって潜り込み、表面に出てこないだけである。
それがさらに麓にくると、水が再び地上に出てくる。
行き場を失った水はそこに沼や湖を作る。
第二のビューポイント、錦小沼に着いた。
周囲1.6km、原生林の中にたたずむ小さな沼だ。(写真左)
沼の頭に「錦」と振っているだけに秋の紅葉はすばらしく、冬は凍結してワカサギ釣りの穴場になっているという。
木道を歩くと緑濃い夏の風情もすばらしい。
左右にさまざまな夏の花が観察される。
ツリフネソウ(写真下左)

ぶら下がっている花の姿が、花器の釣舟に似ているので、この名がついた。
「虫さんおいで」と口をぱくっとあけているように見える。 サワギキョウ。(写真上右)
山地の湿地によく見られる。
花の色はキキョウに似ているが、花形は異なって裂けている。
女子高校生が胸元で結んだ制服のリボンのようにも見える。
タチギボウシが観察できた。
タチギボウシは植えられているものをよく観察するが、自然の中でひっそり咲いていると一味違って、うれしくなってしまう。(写真右)
つぼみが橋の欄干の擬宝珠に似ていることから、この名がつけられた。
たくさんある花の名前を覚えるのは容易ではない。
一度教わっても、右の耳から入って左の耳からすーと抜けてしまう。
どうしてその名がついたのだろうか、言われを知ると比較的頭の片隅に残る。
それでも「この花は何という花ですか?」
何度も何度も専門家に尋ねている。
脳の皺が伸びてきているのでやむを得ない。
樽前山は山に登ると高山植物の宝庫である。
大雪山系より低い上、南に位置してるのに高山植物があるのは、太平洋から流れ込むガス(海霧)の影響だという。
けど山麓には高山植物はなく、むしろ山地の湿地に咲く植物が多く観察された。
春のように一面の花園ではない。
けど濃い緑の中で、ポツリポツリ咲いている夏の花を観察すると、自然とカメラを向けてしまう。
趣のある夏の花と自然の佇まいが、そこにあった。 (写真左上:錦小沼の木道)
札幌:望田武司
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